3月…

多くの企業が年度末を迎え、棚卸のシーズンです。
小売業では、棚卸結果を見て商品ロスの多さに頭を抱えている方も多いでしょう。

この時期は、高らかに叫ぶ経営者、店長の姿があります。

あいつは絶対とっつかまえてやるんだ!

商品ロスと言えば、まず頭に浮かぶのは「万引き」
万引きは、小売業経営者にとって、会計上の損失を生むだけではありません。
店舗とお客様との間にありたい、信頼関係の損失も生みだします。

私は、ある地方のCDショップでこんなお店に立ち寄ったことがありました。
入店するとスタッフが颯爽と売場に出てきて、店舗の隅に張りつきます。
お客様を監視するためです。
常連客は良いのでしょうが、私は初めてそのお店に入った時、ちょっと引いてしまいました。
ただ、お店の立場からすれば、気持ちは良くわかります。

商品ロスがもたらす経営へのダメージ

商品ロスは期末時点での

A「あるはずの在庫高」(帳簿在庫)
B「実際にある在庫」(棚卸在庫)

AとBの差異を指します。

商品ロスは、利益の源泉である粗利益を下げます。

なぜか?

商品ロスの原価相当額は、会計上「棚卸減耗損」として売上原価を増加させるためです。
その経営のインパクトを、事例で確認していきましょう。

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事例)ある本の場合 (売価1,000円 仕入価格800円 粗利益200円)

棚卸でこの本の在庫を数えたところ、100冊あるはずが90冊しかありません。
これにより、1,000円×10冊分の商品ロスが計上されます。
原価(仕入価格)にすると、800円の本が10冊なくなってしまった訳です。

この場合、商品を8,000円分(800円×10冊)喪失しています。
この部分が「棚卸減耗損」となって、売上原価に計上されます。

では、8,000円分の喪失を取り戻すには、同じ本を何冊販売しなければならないでしょうか?
この本の利益は1冊200円です。

8,000円/200円=40冊

40冊も販売しないと取り返せません。

しかし、これは甘く見積もった値です。
実際に喪失した本も、取り返すために販売しようとする本も、人の手を介して販売されます。
人件費に加え、店舗の家賃や光熱費など、店舗の運営経費からは逃れられません。
一般に、このような経費を差し引いた、小売業の営業利益率は1%~3.5%と言われます。
この本に当てはめると、残る利益は、1冊売ってわずか10円から35円ほどです。

この少額な利益から喪失分を取り返すとすれば、一体何冊売らなければならいなのでしょう…。

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商品ロスの発生要因

商品ロスは、小売業の経営に大きなダメージを与えることをご説明しました。

それでは、商品ロス対策と言えば、どんな行動が思い浮かぶでしょう?

・防犯カメラ、ゲートの設置
・警備員の配置

これらは、いずれも万引き対策としての位置づけです。
確かに「抑止効果」と「犯行後の補足」が両立しており、有効な対策と言えます。

ただ、商品ロスは万引きだけが要因ではありません。
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商品ロス発生要因
・外部ロス…外部の者によるロス(万引きなど)
・内部ロス…内部関係者によるロス(内引きと言われるスタッフや出入業者による商品の持ち出し)
・管理ロス…商品管理上のロス(入荷処理モレや棚卸作業のカウントミス)
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統計では、それぞれの割合の多い順に外部ロス47.6%、管理ロス35.2%、内部ロス9.2%となっています。
(引用:Global Retail Theft Barometer 2013-2014)

つまり、対策にはこれらの要因に対して多面的な打ち手を講じなくてはならないのです。

外部ロスをどう減らすか

本日は、打ち手の中から外部ロス対策について述べていきます。

外部ロスの主要因となる万引き対策には「声かけ」が最も有効です。
警視庁の調査によると、万引きの被疑者が犯行を諦める要因は「声かけ」が60%を超えることが分かっています。
お客様の入店時や店内ですれ違う際の接客は、万引き対策と直結していることが分かります。

もし、相対するお客様が不審者と分かっていた場合は、
「いつもありがとうございます」
「何かお探しでしたらお申し付けください」
といった声かけが有効です。

万引きをしようと考える者にとって、存在を認識されている!と感じさせることは、最大の抑止効果に繋がります。

もちろん、先述の防犯カメラや警備員の配置も有効です。
一方で、これらの対策が必要となる前提には、売場に死角がある事に他なりません。
この死角の排除も、万引きの基本的な対策となります。

小売業が店舗の商品構成を考える上では、売場の効率を高める点に注力します。
売場内の商品量確保や演出など、売場の生産性を高め、販売促進を追求するはずです。
一方で、このために棚に高さを持たせたり、店内の見通しを塞ぐ配置にしてしまうことで、死角は形成されます。
極論を言うと、売場のレイアウトにおける生産性と防犯は、トレード・オフの関係にあると言えるでしょう。

スタッフが常駐する場所は、レジ周辺など店内に1箇所しかない、こんな状況は珍しくありません。
必然的に、そこから店舗全体が見渡せることが望ましい売場レイアウトになります。
しかし、売場面積が広かったり、商品の取扱点数が膨大な業種はそうもいきません。
このような場合、常時スタッフがいるエリアを複数設定できるならば、そこから死角を打ち消すように、見通しを確保することが大事です。
例えば、そのエリアは接客スペースや作業スペースが該当します。
それも難しければ、いよいよ防犯カメラやミラーを通じて、死角をカバーする取り組みが必要になります。

外部ロス対策は、「接客」と「死角排除」これらが最も効果的と言えるでしょう。

次回は、内部ロス、管理ロスの対策についてご説明します。

 


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石井 伸暁

中小企業診断士・1級販売士。専門商社で15年以上の小売業支援経験を有します。信条は「WIN-WINアプローチ」。ビジネスの成功は、顧客の利益創出を相互の「協同」と「交換」で成し遂げていくものと考えています。